しくみが行動をガイドする: StackOverflowのコミュニティ運営

渋谷のカフェで打ち合わせをしていたところ、来日中のStackOverflow(エンジニア向けの良質なQ&Aサイト)の方々と偶然出会い、下北沢オープンソースカフェでの講演(2012-07-23)に行く事になりました。

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StackOverflowは、ゴミ質問やゴミ回答が少なく、非常にコンテンツの質が高い、つまり「役に立つ」Q&Aサイトです。この講演で、どのようにコンテンツの質をキープしているのかの理由を知ることができてとても有意義でした。お話を聞いていて少なからず興奮しました。

◯ しくみがコミュニティーの文化を導く

今回の公演を聞いて、StackOverflowがよくできているなあと思ったのは、ユーザがコミュニティ規範を遵守しているというよりも、しくみによってユーザがコミュニティ規範に沿った行動をするように導いているということでした。この「しくみ」は「Vote(投票)」と「Reputation(評判)」でできています。

◯ Vote(投票): 良いコンテンツを目立たせるしくみ

StackOverflowでは、良い質問(=他のユーザの役に立つ質問)と良い回答(=質問者が問題解決できる回答)が目立つようになっています。

回答に「いい」「わるい」の投票をすることで「良い回答」と評価されます。ここで面白いのは、質問者が「ベストアンサー」として回答の中から一番役に立ったものを選ぶのではなく、主に他のユーザの投票によって評価が決められることです。質問者にとって役に立つ、というよりも「コミュニティにとって有益」であることが評価の基準になっているのです。

質問についても、やはりコミュニティにとって有益なものが高い評価を得ます。「どういう質問をするべきか、何が良い質問か」のガイドラインがコミュニティの中で決められています。

面白いのは、この基準からみて「悪い質問」が「ダメな例」として晒されていることです。「海賊が見せしめに公開処刑」という言葉を使って説明されていました。コミュニティ運営には「統治」が必要だということです。

ここで注目したいのは、「悪い質問は晒しあげるけど、良い質問だが質問の仕方が下手なものはみんなで助ける」というしくみです。コミュニティに貢献する質問だが、回答するのに必要な説明が足りないとか、フォーマットがわかりにくいといったものについては、その質問自体を他のユーザが改良したり、「こういう情報があると答えが来るかも」と手助けしたりします。

他のユーザの質問を編集出来る(もちろん質問者の承認があってはじめて反映されますが)しくみがあり、こういった手助けをするとポイントが貰えるしくみがあります。だからこういった行動が起きているのです。コミュニティの文化や規範があって、それに従って行動しているというよりは、質問者に助け舟を出すとポイントが貰えたりするしくみが、ユーザの行動を形作っているのです。

◯ Reputation(評判)とコミュニティでのユーザの役割

良質なコンテンツを支えるもう一つのしくみが、ユーザの「Reputation(評判)」です。質問に答えたりしてサービスを使っていくと、ポイントが貯まります。コミュニティーの貢献度に応じていろいろな種類のバッジがもららえます。

「他の人が自分をどう見ているかを、人はとても気にする」という人間の心理をくすぐるしくみを作っているのです。「ユーザが自慢できる」ということを、重要視しているようです。

この評判のしくみとコミュニティ運営は密接に関わっています。例えばポイントが全くない状態では、他のユーザの回答に投票することさえで着ません。また、評判のポイントが溜まっていくと、よりコミュニティ運営の根幹的な活動に参加できるようになります。

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ポイントやバッジが、ユーザの単純な動機付けのためだけに使われているのではなく、コミュニティに貢献する行動を導くしくみになっているのです。コミュニティでの「良い行動」、コミュニティの規範を守る、コミュニティに貢献する、こういったことが、「評判」のしくみのなかでユーザが自然に行うようになっているのです。

「投票」や「評判」など、モデレーションのしくみのためにソースコードの90%が費やされているそうです。彼らが「我々はQ&Aサービスを作って運営しているのではなく、コミュニティを運営しているのです」と繰り返し強調していましたが、とても納得ができました。

◯ コミュニティの文化・規範はどのようにしてつくられたか

StackOverflowは、リリース前に数ヶ月の間、クローズドベータとして限られたユーザで使っている時期があったそうです。それで、リリーズ時には十分なコンテンツ、良質な質問と回答が揃っていたわけです。

そこで、私は「このクローズドベータの間に、コミュニティーの規範が作られたのですか」という質問をしました。

答えは「No」でした。コミュニティがどうあるべきかについては、クローズドベータの前、ユーザに使ってもらう前に、内部で十分に話し合って熟考して決めたそうです。

この辺りが、「どういったコミュニティを作り、サービスを提供するか。それによってどう世の中をよくしていきたいか、人を幸せにしていきたいか」という作り手のビジョン、フレーム、世界の重要性を示唆しているのだと感じました。

「ユーザの要望」はユーザが想像できる範囲にしかない。それを超えるものを提供するのがわれわれものづくりをするものの使命であるということを今更ながら再認識しました。

◯ ビジネスモデルは?

気になるビジネスモデルについてですが、当初はエンタープライズ向けのASPなどを考えていたそうです。Q&Aプラットフォームの販売ですね。

ただ、いまは収益を姉妹サイトの求人サービス「Careers 2.0」から得ているそうです。これは納得。回答の質を見るだけでその技術者のスキルはわかるし、何よりも、面接などでも見ぬくことが難しい、彼らのコミュニティ内での振る舞いやコミュニティへの貢献に対する姿勢などが可視化されているわけですから。